身を焼くより

 ありていにいえば、わたしは母が嫌いなのだ。


それはハウルの動く城のソフィーばりに、よくできた呪いで、人には言えない類のもので、だけどわたしには心やさしい悪魔のカルシファーなんていないから、「その呪いは人には言えないよ」だなんて言ってももらえなくて、それだから仕方なく一人で呟いてそれで納得するしかないそういう類のものなので、まあ仕方ない。

ソフィーの美しく華やかな母は、生まれつき当然のものとして備わっている、その美しさと華やかさ、そうしてそこから生まれる無垢で無邪気な残酷さで、ソフィーを傷つけ損ない続け、ソフィーはその呪いから抜け出すための儀式として荒地の魔女の呪いを受けて老婆になり、それでもその老婆になったソフィーの本当の美しさに気づき認めてくれるカルシファーマルクルとかかしとハウルによって救われ再生するのだ。たぶんね。わたしが思うに。

わたしは母が嫌いなのだなんて、そんなつまらないことが問題なんじゃない。母親の呪縛に苦しんでる人なんか、掃いて捨てるほどこの世の中にはいるんだし。だからそんなことはどうだっていい。
ただ、気掛かりなのはあの子のこと。わたしのかけた呪縛にあの子が苦しんでるんじゃないかってこと。

それが身を焼くより辛い。