しみったれ

 しみったれた雨降りのおかげで街路樹から街路樹に渡されたスポンサーの名前の入ったお祭りの提灯もすっかり台無し。所在なさげに舗道の上に置き去りにされてた。でもわたしだっておんなじ。今日のわたしは60%が水分とあとの40%は心配事が詰まってできてる。やわだから誰かとぶつかったらきっとそこがへこんじゃう。だから誰にもぶつからないように、いつもより少し気をつけて歩く。特にあの駅前に立ちはだかるティッシュ配りには気をつけないと。彼らはいつだって駅の入り口のすべての扉の前に両脇から立ちはだかってオクターブ高い声と怖い顔でしつこくポケットティッシュを突きつけてくる。通行人たちのかばんの中をティッシュだらけにするだけじゃ飽き足らず、この世界中のすべての家庭をティッシュで埋め尽し滅亡させようと思ってるのかもしれない。あの差し出されるポケットティッシュをすべて受け取ってたらほんとに世界は滅亡しそう。なーんてああいやだ。なんだかわたしの頭の中までしみったれてきたみたい。足早に歩いて駅の向こう側に出たら、エスカレータを降りたすぐのロータリーで迎えの車を待ってるスーツ姿のおじさんの背中に小さな蛾がとまってた。「ねぇ、おじさん、背中に小さな蛾がとまって時々はばたいてますよ」って、そう教えてあげたくて教えてあげたくてたまらなかったけど、わたし我慢して黙って通り過ぎた。あんなにして背中に蛾をとまらせてるおじさんとそれを言いたくてたまらないわたしと、ねぇどっちが一体ほんとに脳たりんみたいなんだろう?