総合病院

 いつもの総合病院小児科。何年も通ってるうちにいつの間にか看護士さんの顔ぶれは皆すっかり変わり、医師にしたって変わらないのは、紫色に固まった体で生まれ息すらしていなかったあの子の命を救ってくれた小児科部長だけ。この間ここにいつもの内服薬の処方を受けに来たときには「いつ終わるんだろうね」なんて珍しくこの階段を上りながらあの子が言ったんだっけ。それがなんだか大人びておかしくて、それからちょっとかわいそうで。小さな心で小さな体でそれなりにつらかったり悲しかったりしたんだろうなって。でもねそんなことが言えるのは多分やっと終わりが見えそうな気がしてきたから。だって終わりの見えない、いつまで続くのか見当もつかない長いトンネルの真っ只中にいる時って、そんなこと思ったって口に出せやしない。それは守らなきゃいけない最後の砦みたいなものだもの。
 手術着のままペットボトルのお茶を抱えた医師と階段ですれ違いざま挨拶をする。「ああこんにちわ」「こんにちわ」「じゃぁ今度水曜日に」「はい、おねがいします」マスクの影からほんの少しのぞく目でいつもの眼科の医師だと気づく。手術着を着ているのがなんだか少し恐かった。
 「ねぇ今の人誰だかわかった?」階段をすっかり降りきってから振り向いてあの子に訊く。「ううん。知らない」「いつもの眼科の先生だよ。わかんなかった?」「うんわかんなかった」「そっか。そうだよねいつもはあんな格好してないもんね」 
 しばらく前に変更になった会計システムと院外処方のことをあの子が得意そうにわたしに説明する。もちろん、そんなことわかってる。でもわたしわざとちょっとわからない振りをしてあげる。いつの間にかあの子がわたしのお世話を焼いてくれるほどに成長してくれたことがやけに嬉しいから。総合病院を出て隣の薬局へ。ねぇ冷たい風がぴゅーって吹いて目に染みる。