秋風

 「ちがうんだよ。結局はお盆を過ぎると8月と言えども途端に秋風が立ち始めて体を冷やしていけないから、お盆過ぎに海や川に行くと亡者に足を引っ張られるって言うのは本来そういう意味なんだよ。昔の人はそうして脅して子供をいさめたんだよ」おじさんが言う。アイスコーヒーに浮かんだバニラアイスはもうすっかり溶けきっちゃってコーヒーを曖昧な色に濁らせてる。そうかな。そんなはずないよ。お盆を過ぎたってそんなに突然秋になんてならないよ。心の中でそう思う。だって暑いもん。夏だもん。旧暦と違うもん。
 だけどねぇ、わたしなんだか気づいたの。不思議だけど嘘みたいだけどお盆を過ぎた途端本当に秋風が立ち始め、朝に夕に涼やかな風がわたしの肩を撫でて吹いて過ぎてゆく吹き過ぎてゆく。肩に触る風を感じながらこっそり考える。時々はくるくる渦を巻くのかなそうなのかな。わたしの頬のまわりをまわるのかな肩のまわりをまわるのかな。きっとそうだといい。そう思う。わたしの周りをくるくる回ってそれからきっとわたしを置いて吹きすぎて行って。だって風には風の行くべきところがある。それから生まれ変わるところがある。