かなしき玩具

yeup2005-12-23

 ご多分に洩れずあの子もたまごっちが欲しいらしい。そんなに欲しいなら買ってあげてもいいかもねーなんてのんきに考えてみたものの夜討ち朝駆けこの寒い季節夜中の3時早朝5時におもちゃ屋の前になんだってかんだっていい歳こいてアホ面さらして並べるかってんだよ、べらぼうめ。いきなり江戸っ子かたぎで寿司などつまみつつギッと睨むその目に入るのは

お客様にご応募いただきました予約抽選のお申込は、厳選なる抽選の結果、残念ですが、『落選』という結果となりました。ご希望にお応えすることができず、申し訳ございません

のかなしきお知らせメールばかりなり。ってか落選落伍者のわたしにはお知らせメールくるほうが珍しいんだけどね、うきゃきゃ。
 「ゆえさんのお子さんもたまごっちとか欲しいんですか?」なんてソームの女の子。「別にその『とか』ってやつはいらないと思うけど、でもやっぱたまごっちはほしいみたい。わたしはいらないと思うんだけどね」「やっぱりそうなんですか。○課のガブ係長は朝5時に並んだらしいですよ。○室のブー課長はネットオークションでゲットしたそうです」朝5時、ブラボー。ネットオークション、スタンディングオベーション。きっとこの国は狂ってんだよねぇ母さん。定価を遥かに超えた価格で落札したたまごっちを得意げに寝入る幼い娘の枕元に置くでっぷり太ったお父さん。吹きすさぶ寒風に真っ赤なお鼻のトナカイサンタになっておもちゃ屋の店先に並ぶお父さん。遊びきれないほどたくさんの切ないおもちゃに囲まれて育つ子供たち。どこかの知らない国で食べるものもなく住む家もなくそれでも澄んだ瞳で空を見上げている、いや現実に目の当たりにしたことはないけどきっといるんだろういるんじゃないかないるに違いないそういう何万人もの子供たち。「うちはやっぱりたまごっちはいらないかな」そういい残して昼休みのロッカールームをあとにする。「前と同じでブームが去ったらみんな見向きもしなくなるよ」後ろで誰かがそう言った気がするむにゃむにゃ。
 クリスマスプレゼントなんかもう必要ない。ほら降りしきるこの冷たい雪の夜、凍傷になりそうな思いをしながら鼻水を流しつつ一緒に雪だるまをつくろう。それでそれで充分じゃないか。あの子と一緒に雪玉を転がしながら心の中で熱きシュプレヒコールをあげる抽選にも漏れオークションにかけるお金も並ぶガッツもない可哀想なわたし。だけどそれ以上に悲しき切ない玩具。ほげほげ。