冬のクラムケーキ

yeup2005-12-22

 寒い朝車がバリバリの氷で包まれてた。夜中に積もらない雪がちらついたのかもしれない。そういえば昨日の夜中、近未来SF小説に出てくる荒廃した地球はさもあらんという恐ろしい強風がごうごう吹き荒れてたっけ。日陰の駐車場から出てきたばかりの車はフロントガラス以外は真っ白な雪なのか氷なのか判然としないものに包まれたまま。建物の影、日当たりの悪い路面ではみんな今にもスリップするんじゃないかとびくびくしながら一応にスピードを落としそろそろと車を走らせてる。おおよそこの街に不似合いなこの光景が愉快なようなそうでないような。油断していたらわたしだってつるんとタイヤを滑らせてその辺のガードレールにでもぶつかっちゃうかもしれない。そんなことを考えながら青信号で通り過ぎた交差点の脇の横断歩道の渡口に、中型犬が一匹、四本の足をつんと伸ばして転がっていた。死後硬直にこの寒さまで加わって、このぶんじゃいつもより余計にかちんかちんだな、そんな冷めたことを考える。茶の体毛に耳の先が黒い犬。通学途中の自転車の女子高生が少し離れた場所から信号が変わるのを待ちながらこわごわそっちを見て友達同士何かを話してた。どっちにしろ信号が変わればその転がってる犬のすぐ横を犬の体をその自転車のタイヤで踏まないようにして通リ抜けなきゃならない。世の中には避けてとおれないことが山ほどあるのだよ、ミニスカじょしこーせーの諸君。こんなことはそういう山ほどある避けてとおれないことのほんのさわり、チーズのひとかけらに過ぎないのさ。えっへん。ちょっと威張って説教を垂れてみる。もちろん心の中で。

 送り出すべき人を駅へと送り届け無事スリップ事故も起こさずに家へ帰り着く。さて今日は久しぶりの一人ぼっちのお休み。っていっても11時までのほんの数時間だけど。食品庫からいただき物の焼き菓子が入った箱を取り出して、ちょっと迷って小さなスティックになったオレンジとフルーツのクラムケーキを取り出す。それからインスタントコーヒーをいれていつもの椅子に座るとぼんやり窓の外を眺めながらケーキを食べコーヒーをすする。ケーキを食べコーヒーをすする。厚いどんちょうのような低い雲の向こうで病気みたいな太陽が白んでる。ケーキを食べコーヒーをすする。ケーキを食べコーヒーをすする。白けた太陽も低い雲も吹きすさぶ強風もゴミ袋を抱えた近所の奥様も、何ひとつわたしの食べてるこのクラムケーキの甘さを邪魔するものはない。幸せって結構簡単に手に入る。そう思う。