ある朝オクラの花が咲いた

yeup2005-07-30

 ある朝オクラの花が咲いた。あの子が学校の授業で植え、夏休み前に持ち帰ってきていたオクラの鉢にある朝花が咲いていた。オクラの花は意外なくらい美しく高貴で繊細でどう考えてもあんなねばねばとげとげした食べ物の花だとは思えなかった。
 「ねぇオクラの花が咲いたよ」あの子の言葉を上の空でききながら大慌てでバックを肩にかけ玄関の鍵を閉め、「ええ?なに?オクラ?花なんて咲いてないでしょ」なんて面倒くさそうにいいながらちらりとみた軒先の青い四角い樹脂製の鉢に綺麗な綺麗な淡い黄色のオクラの花がはかなげに憂いを含んだ美人のような顔をして咲いていた。大慌てで携帯を取り出して一枚だけ写真を撮る。「ほんとうはこんなことしてる時間なんてないんだけど、でもこの花、きっと今日の夕方にはもう閉じちゃうから」「そうなの?もう閉じちゃうの?」「うんきっと」だってそうに違いないって思うくらいオクラの花は、はかなげ。
 
 それから車を運転しながらこう思う。このオクラの花が咲いた朝のことを覚えておこう。いつか何かの思い出の目印として覚えておこう。土曜日の遊園地、あのこが生まれて初めてゴーカートを運転したこと。生まれて初めてわたしを助手席にのせてくれたこと。それからわたしがどうしても開けられなかったかたいビンのふたをポンと音をたてて開けてくれたこと。そういうことの小さな思い出の目印としてこのオクラの咲いた朝のことを覚えておこう。そういうどきどきした朝のことをいつかきっと上手く思い起こせるように、今日の朝のあのオクラの花のことを覚えておこう。 


 夕方あの子と一緒に家に帰ってきたらオクラの花はもう捻られたような形で慎ましやかに閉じていた。そして翌朝には土の上に落ちていた。わたしの撮った写真ったら本物のオクラの花の美しさの56億分の1も写し取れていなかった。


    黄色の花がひとつさきました・・・・


夕食前のリビングのテーブルであの子が観察日記を書いた。