チャーリーとチョコレート工場

 観終わってしばらくしてから、なんだかふと時計仕掛けのオレンジを思い出した。それから不思議の国のアリス。正直普通のファンタジー映画だと勝手に思い込んで観にいったので、チャーリーの家と家族の描写を見てもしやと胸騒ぎを覚え、その後いよいよウィリー・ウォンカが登場するにいたっては、その胸騒ぎは確信に変わったのだけれど。

 登場してくるキャラクターはもちろん、風景背景すべてがひどくサイケでマッドで悪趣味で、これでもか、これでもかと腹十八分目くらいの大げさなシンボライズにデフォルメ。チャーリー以外の4人の子供たちも、工場長のウィリー・ウォンカも、その中に一人や二人せんだみつおが混じってても決して誰も気づかないに違いないウンパルンパたちも、それから貧乏のエキスを抽出してつくりましたといわんばかりのチャーリーの家族たちも家も、チャーリーが引き当てたゴールデンチケットを足元を見たような、はした金で買い取ろうとする大人たちも、ウォンカのSF的設備と毒キノコばりの極彩色に彩られた似非ファンタジーなチョコレート工場の内部も、もうとにかく何もかもがどぎつくえげつなく。大体あの映画の中に出てきた人間の中でまともな人と言ったら、引き当てたゴールデンチケットを無理やり金で買い取ろうとするいやったらしい大人たちを「その子にかまうんじゃない」と一喝しチャーリーを守ってくれた店の店主くらい。
 いくらチャーリーの家が貧しいって言ったって、あのまるでスタインベックの小説にでもでてきそうな、ひん曲がったピサの斜塔なんて目じゃないくらい傾いた家なんてありえないし、ツーペアのおじいさんおばあさんが向かいあわせに足を突っ込んでほとんど座ったまま眠るベッドだって悪い冗談。何より少年時代のウィリー・ウオンカが歯科医の父親の手により装着させられていた拷問かと見まごうような凄まじい歯科矯正器具と、偏執狂としか思えない歯科医の父親にはもう脱帽、と言っても帽子をかぶる習慣のないわたしは慌ててシネコンのポップコーン売り場まで走り「すみません脱帽用の帽子をください。大人ひとつ、小学生ひとつ」と懇願してしまう始末でそれはもう大変な騒ぎ。 

 ラストで、もう貧乏じゃなくなったチャーリーとその家族、それから人間らしい感情を取り戻したらしきウィリー・ウォンカがハートウォーミングな会話を交わしつつ裕福な家庭の象徴であるかのごときチキン(もしくは七面鳥?)の丸焼きがどでんとのせられたテーブルを囲む団欒のシーンの後、ずーっと引いていったカメラが、チョコレート工場の似非ファンタジーな風景の中にそっくりそのまま移転(もしくはそっくり同じに新築?)された、へそ曲がりのカタツムリみたいに傾いたチャーリーの家を映し出したのには笑ってしまった。「どう?おとぎ話ってこんなに陳腐なものなのよ」とかなんとか。なんだかまるでウィリー・ウォンカにウィンク、というよりあかんべーでもされたみたい。
 というわけですごくおもしろかったです。