影法師

 影法師になっちゃえば意外に人間はさらさらした綺麗な生き物なのかもしれない。真っ黒だけどぺらぺら地面にはりついてるだけだし脳みそにも腹にも腹黒くなれるほどのスペースもなさそう。子供のときは時々わけもなく影が恐ろしかったりもしたけど。

 会社の仕事なんてままごとみたいなものだなぁって時々そう思う。メールボックスに入れられた報告書や申請書を取り出しながら何だってこの人はいつもこうも稚拙な文章を書くんだろう。そのくせ上司にひどく褒められてた他の人の成果発表を学生のレポートレベルだってこっそりわたしに悪口を言ってきた。数行のつまらない文言の最後に「ご査収ください」の一言さえつけばそれでもう仕事ができるんだって思いこんでるようなおばかさん。「ゴサシュウの上ゴコウハイください・・・」サイトをプリントアウトした紙切れの束をホッチキスでとめて「興味のある記事がございましたのでご確認ください」これはもう10年も前に他の企業が実施していることの二番煎じです。ただ広告宣伝が派手なだけで何も目新しくなんかありません。面と向かってそういってやりたい衝動に駆られるけど、何も見なかったことにしてそれぞれを決められた法則にしたがって整理処理していく。ままごとみたい。だけどそれでも会社はまわっていく。ちゃんとした仕事をしてるみたいな顔をみんながして取引先の人たちもみなまじめなちゃんとした顔をしてやってくる。仕方がないからせめてわたしはできるだけ馬鹿みたいな顔をして馬鹿みたいにままごとみたいな仕事をする。一日ままごとで忙しい。